石油・ガス、石油海運:ゴールドマン・サックスは、直近のペルシャ湾石油輸出を約1,500万~1,600万b/dと推定、現在可視化されているデータを大幅に上回る
より多くのタンカーがAISトランスポンダーを停止し、船舶間移送を実施する中、従来のデータがペルシャ湾輸出を過小評価するリスクが高まっている。ゴールドマン・サックスは、過去データの改訂と原油バランスという2つの独立した手法で類似した結果を得たが、追加的なダークベッセルのフローと中国需要の価格感応度が原油価格の上振れを抑制する可能性があるとみている。
要約
より多くのタンカーがAISトランスポンダーを停止し、船舶間移送を実施する中、従来のデータがペルシャ湾輸出を過小評価するリスクが高まっている。ゴールドマン・サックスは、過去データの改訂と原油バランスという2つの独立した手法で類似した結果を得たが、追加的なダークベッセルのフローと中国需要の価格感応度が原油価格の上振れを抑制する可能性があるとみている。
- 直近のペルシャ湾石油輸出は1,500万~1,600万b/dと推定される。
- 輸出は戦前水準を700万~800万b/d下回るが、3月の低水準を500万~600万b/d上回る。
- 週次輸出データのその後の上方改訂は6月初旬以降拡大を続けており、現在は約400万b/dに達している。
- Kplerの履歴ビンテージ改訂手法による輸出推定値は約1,500万b/dである。
- 原油バランス手法による推定値は、総石油で約1,600万b/d、原油で約1,350万b/dである。
- 2027年5月のペルシャ湾から中国へのタンカー運賃は今月5倍に上昇し、混乱が2027年まで続く可能性に対する市場の懸念を反映している。
- 本レポートは、混乱が長期化するシナリオでは、欧州天然ガスおよび先物精製製品価格の方が原油より大きな上振れ余地を持つとみている。
レポート解説
概要
本レポートは、AISを停止するタンカーの増加、限られた衛星カバレッジ、船舶間移送の拡大を受け、ペルシャ湾の石油輸出がどの程度過小評価されているかを検討している。海運データの過去ビンテージを改訂し、ペルシャ湾の原油バランスを構築することで、ゴールドマン・サックスは直近の総輸出を約1,500万~1,600万b/dと推定している。これは輸出が3月の低水準から回復している一方、戦前水準をなお下回っていることを示す。
主要見解
ペルシャ湾輸出を直接測定することはますます困難になっている。ペルシャ湾を離れるタンカーのAISまたはトランスポンダー停止が増加し、「ダークベッセル航行」が発生している一方、衛星カバレッジは依然として限定的で、船舶間移送も増加している。一部のタンカーはペルシャ湾から遠く離れた後に信号を再開するため、同じ週の輸出データは、その後数週間にわたって大幅に上方改訂されることが多い。ゴールドマン・サックスは、直近のペルシャ湾の総石油輸出を約1,500万~1,600万b/dと推定しており、これは最新の可視データを上回る。ここで石油には原油、精製製品、液化石油ガスが含まれる。この水準は戦前水準をなお700万~800万b/d下回るが、すでに3月の低水準を500万~600万b/d上回っている。 第1の手法はKplerの最新報告値から始め、同一輸出週について異なるデータビンテージ間の推定値の変化を比較する。本レポートは、週平均のペルシャ湾石油輸出の上方改訂が概して6月初旬以降拡大し、現在は約400万b/dに達していると指摘する。この改訂はサウジアラビア、UAE、イラン、イラク、カタール、クウェートを含む供給国を対象とし、主に原油に集中している。ゴールドマン・サックスは、改訂が2週間前に観測された水準にとどまるシナリオと、直近のトレンドに沿って拡大を続けるシナリオの2つを検討する。これにより、直近の総輸出は約1,500万b/dと推定される。付録は、現在、異なるデータプロバイダーがホルムズ海峡を通過する石油輸出について概ね類似した数値を報告していることも示すが、これはダークベッセルが後に再出現することにより生じるビンテージ改訂をなくすものではない。 第2の手法はすべての船舶を直接観測することに依存せず、代わりに原油バランスを構築する。原則として、純原油輸出は、原油生産から製油所処理量と直接原油燃焼を差し引き、原油在庫の取り崩しを加えたものに等しい。その後、Kplerの精製製品および液化石油ガス輸出を加えて総石油輸出を導出する。表では、2026年8月の原油生産は1,860万b/d、原油燃焼は130万b/d、製油所処理量は610万b/d、可視在庫取り崩しは70万b/dであり、過去残差の調整前の純輸出推計は1,180万b/dとなる。2018~2025年の平均残差を用いて調整すると、原油輸出の推計値は1,340万b/dとなり、本文で示された約1,350万b/dと整合する。精製製品と液化石油ガスを加えると、総輸出は約1,600万b/dとなる。調整後の原油輸出推計値は、3月から7月に平均1,000万b/dだった。較正のため、2018~2025年の調整前輸出推計平均は1,530万b/d、公式純輸出は1,690万b/dであり、マイナス160万b/dの残差が生じた。 バランスに用いるデータソースには、大半の国の生産量についてはOPEC二次情報源、カタールの原油・コンデンセート生産量および原油燃焼についてはIEA、製油所処理量と陸上・洋上原油在庫についてはKpler、公式純輸出についてはPetroLogisticsが含まれる。2026年8月の生産量はゴールドマン・サックスの暫定推定値である。PetroLogisticsの月次データが入手できない場合、本レポートはKplerの月次変化率を用いて観測値を延長し、在庫および純輸出にサウジ・クウェート中立地帯を含めている。相互に独立した2つの手法は、それぞれ約1,500万b/dと1,600万b/dの総輸出推計をもたらし、輸出が可視データを上回るという結論を相互検証している。 推定値はペルシャ湾の総フローを対象とするが、継続する上方改訂は、ホルムズ海峡を通過する実際の石油輸送量が米国当局の推定する800万~1,000万b/dに近い可能性を示唆する。専門海運事業者によるダークベッセル航行および船舶間移送の増加は、生産者と運送業者が中東紛争に適応していることを示す。2027年5月のペルシャ湾から中国へのタンカー運賃は1カ月で5倍に上昇し、混乱が2027年後半まで続く可能性があるという海運市場の見方を反映している。しかしゴールドマン・サックスは、まだ観測されていない追加的なダークベッセルのフローと、中国の純原油輸入の価格感応度が、混乱が長期化した場合の原油価格上昇を緩和する可能性があるとみている。混乱が持続するシナリオでは、原油よりも欧州天然ガスおよび先物精製製品価格の方が大きな上振れ余地を持つとの見方を維持している。
分析フレームワーク
本レポートはまず、AIS停止、不十分な衛星カバレッジ、船舶間移送によって生じる直接海運統計の過小評価を特定し、その後、2つの独立したアプローチを通じて実際の輸出を推定する。第1の手法は、同一輸出週の初回ビンテージと1、2、4週間後のビンテージを比較し、直近の改訂パターンに基づいて最新のKplerデータを調整する。第2の手法は、生産量、原油燃焼、製油所処理量、在庫変動を使用して純原油輸出を推定し、精製製品および液化石油ガス輸出を加える。最後に、本レポートはホルムズ海峡のフロー、先物タンカー運賃、中国の輸入行動を用いて、輸出改訂がエネルギー価格に与える影響を説明する。
手法メモ
Kplerの履歴ビンテージ改訂手法
本レポートは、同一輸出週について初回データビンテージと1、2、4週間後のビンテージの推定値を比較し、ダークベッセルが信号を再開する際に生じる体系的な上方改訂パターンを用いて、まだ完全に顕在化していない最新輸出データを調整する。
ペルシャ湾原油バランス
本レポートは、生産量から製油所処理量と直接燃焼を差し引き、在庫取り崩しを加えることで純原油輸出を推定し、推計値と公式輸出の平均的な過去残差を用いて結果を較正する。
先物タンカー運賃を用いた持続的な海運混乱に対する期待の評価
本レポートは、2027年5月のペルシャ湾から中国へのタンカー運賃が1カ月で5倍に上昇したことを、中東の海運混乱が2027年まで持続する確率を市場が大幅に引き上げたシグナルとみなしている。
資産マッピングと比較
投資テーゼから固有資産への構造化マッピング(強み、弱み、同業、リスク)。
- 原油実際のペルシャ湾輸出は可視データが示す水準を上回っており、混乱が持続するシナリオでの供給逼迫による価格影響を緩和する可能性がある。
- 強み
- 直近のペルシャ湾輸出は3月の低水準から500万~600万b/d回復している。
- 弱み
- 輸出は戦前水準をなお700万~800万b/d下回る。
- 比較
- 本レポートは、価格上昇余地が欧州天然ガスおよび先物精製製品より小さいとみている。
- リスク
- 中東の海運混乱が持続すれば原油は引き続き上昇圧力に直面するが、ダークベッセルのフローと価格に敏感な中国輸入が上昇を抑制する可能性がある。
- 欧州天然ガス本レポートは、中東の海運混乱が持続するシナリオにおいて大幅な価格上昇余地を持つとみている。
- 強み
- 持続的な混乱に対する上昇反応は、原油より強いと考えられている。
- 比較
- 本レポートは、価格上昇余地が原油より大きいとみている。
- リスク
- 持続的な海運混乱が価格を押し上げる可能性がある。
- 先物精製製品持続的な混乱は精製製品の供給と輸送に影響を及ぼし、本レポートは先物価格に大幅な上昇余地があるとみている。
- 強み
- 混乱が持続するシナリオでは原油より価格感応度が高い。
- 比較
- 本レポートは、その価格上昇余地が原油より大きいとみている。
- リスク
- 中東の輸送が長期的に混乱すれば、先物価格をさらに押し上げる可能性がある。
- ペルシャ湾から中国へのタンカー海運先物運賃は中東の海運混乱の期間に関する市場の期待を反映する。
- 強み
- 専門海運事業者は、ダークベッセル運航および船舶間移送を通じて紛争環境に適応している。
- 弱み
- この航路は持続的な混乱に直面しており、直接的なフロー統計の透明性は低下している。
- 比較
- この航路の2027年5月運賃は1カ月で5倍に上昇した。
- リスク
- 市場は、混乱が2027年まで持続するリスクを大幅に織り込んでいる。
主要データ
- 直近のペルシャ湾総石油輸出1,500万~1,600万b/d2つの独立した手法による推定レンジ。原油、精製製品、液化石油ガスを含む。
- 戦前水準比700万~800万b/d低い直近の輸出はまだ戦前水準に回復していない。
- 3月の低水準比500万~600万b/d高い輸出が3月の谷から大幅に回復したことを示す。
- 週次輸出の直近の上方改訂約400万b/d上方改訂トレンドは6月初旬以降拡大を続けており、主に原油に集中している。
- Kplerビンテージ改訂手法の推定値約1,500万b/dダークベッセルが信号を再開した後にデータが上方改訂される過去パターンに基づき調整。
- 原油バランス手法の推定値総石油約1,600万b/d、原油約1,350万b/d表では、2026年8月の残差調整後の原油輸出推計値は1,340万b/dである。
- 2026年8月の原油バランス構成要素生産量18.6、原油燃焼1.3、製油所処理量6.1、可視在庫取り崩し0.7百万b/dこのバランスでは、過去残差の調整前の純輸出推計は1,180万b/dとなる。
- 2018~2025年の平均較正残差マイナス160万b/d期間中の調整前純輸出推計は1,530万b/d、公式純輸出は1,690万b/dだった。
- 2026年3月から7月の調整後原油輸出推計平均1,000万b/d原油バランスで示された期間平均。
- ホルムズ海峡を通過する実際の潜在的石油輸送量800万~1,000万b/d本レポートは、実際のフローが米国当局による推定値に近い可能性があるとみている。
- 2027年5月のペルシャ湾から中国へのタンカー運賃今月5倍に上昇海運混乱が2027年まで持続する可能性に対する市場懸念の大幅な高まりを反映する。
影響と示唆
輸出データの持続的な上方改訂は、ペルシャ湾の供給フローが従来の船舶追跡で現在示される水準より高いことを示し、生産者と運送業者がダークベッセル運航および船舶間移送を通じて紛争に適応していることも示している。したがってゴールドマン・サックスは、中東の混乱がより長期化しても、観測されないダークベッセルのフローと中国輸入の価格感応度が原油価格の上昇を抑制する可能性があるとみている。対照的に、混乱が持続するシナリオでは、欧州天然ガスおよび先物精製製品価格はより大きな上振れリスクに直面する。
リスク
- AISを停止するタンカー、限定的な衛星カバレッジ、船舶間移送の増加により、現在の輸出統計が実際のフローを引き続き過小評価し、その後に大幅な改訂が生じる可能性がある。
- 中東の海運混乱は2027年まで持続する可能性があり、先物タンカー運賃はすでにこのリスクの高まりを反映している。
- 追加的なダークベッセル供給と中国の純原油輸入の価格感応度は、混乱が持続するシナリオでの原油価格上昇余地を抑制する可能性がある。
注目点
- 公表後1、2、4週間の週次ペルシャ湾輸出データに対する上方改訂の規模を監視する。
- ダークベッセル航行、AIS信号の再出現、船舶間移送活動の変化を監視する。
- 2027年5月のペルシャ湾から中国へのタンカー運賃が、持続的な混乱の確率をどのように織り込むかを監視する。
- 中国の純原油輸入の価格上昇に対する感応度を監視する。