石油・ガス:ブレント価格のリスクプレミアムは中程度にとどまるが、複数地域での供給障害により現物市場は大幅に逼迫
ゴールドマン・サックスはブレントのスポット適正価値を約80ドル/バレルと推定し、新たな米・イラン合意が成立するか、紛争が大幅にエスカレートするまで、原油価格は概ね80~90ドル/バレルの範囲にとどまると予想している。
要約
ゴールドマン・サックスはブレントのスポット適正価値を約80ドル/バレルと推定し、新たな米・イラン合意が成立するか、紛争が大幅にエスカレートするまで、原油価格は概ね80~90ドル/バレルの範囲にとどまると予想している。
- 世界の可視石油在庫は過去2週間に日量630万バレルのペースで減少し、現物市場が明確に逼迫していることを示している。
- ペルシャ湾の石油フローは戦前水準の36%、約日量900万バレルまで低下し、7月前半の約80%を大きく下回った。
- バブ・エル・マンデブ海峡およびスエズ運河を経由する紅海の総フローは前週比で日量170万バレル減少した一方、サウジアラビアはエジプトのSUMEDパイプラインを通じた迂回出荷を増やしている。
- ロシアの原油・コンデンセート輸出は過去2週間で日量130万バレル減少し、CPCの積載量はなお通常水準を約日量100万バレル下回っている。
- アジアの原油・コンデンセート純輸入は過去2週間で日量560万バレル増加し、中国が日量230万バレルを寄与した。
レポート解説
概要
本レポートは、在庫、海運、輸出、輸入、製油所稼働を追跡して世界の石油市場を評価する。米国がイランへの攻撃を中止し、交渉に「最後の機会」を与えたことで、ブレントは1バレル当たり80ドル台前半から半ばまで下落した。しかし、市場は依然として中東供給を巡る高い不確実性に直面している。ゴールドマン・サックスは、現行価格には中程度のリスクプレミアムしか含まれていない一方、直近の世界可視在庫の急減は現物の需給が大幅に逼迫していることを示すと考えている。
主要見解
本レポートの中核的な見方は、短期的な原油価格が二つの力によって引っ張られているというものだ。外交的な緊張緩和が地政学的リスクプレミアムを抑制する一方、ペルシャ湾および紅海のフロー減少、ロシアおよびCPC輸出の障害、アジア輸入の増加が現物価格を支えている。基本シナリオでは、新たな米・イラン合意の確認、または攻撃範囲の大幅な拡大が起こるまで、ブレントは80~90ドル/バレルにとどまる。供給逼迫は単一地域の事象ではなく、中東の輸送障害、ロシア輸出の減少、アジアの在庫積み増しが複合した結果である。
分析フレームワーク
本レポートは、OECD商業在庫、現在のOECD需要、長期ブレント価格アンカー、ならびに在庫と先物価格に対するスポット価格の歴史的関係を組み合わせて適正価値を推定する。また、海運、積載、輸入、輸出、在庫、製油所データの7日、14日、28日移動平均を用いて短期の需給変化を特定し、戦前、通常、前年比、前週比のベンチマークと比較する。
手法メモ
在庫水準と長期価格アンカーに基づきブレントのスポット適正価値を推定
このモデルは、OECD商業在庫、OECD需要、長期ブレント・アンカー価格、在庫と先物価格に対するスポット価格の歴史的関係を組み合わせ、ブレントのスポット適正価値を約80ドル/バレルと推定する。
観測可能な在庫変動を通じて現物市場の逼迫度を測定
世界可視在庫は過去2週間に日量630万バレルのペースで減少しており、供給フローの減少とアジア輸入の増加が可視在庫を急速に取り崩していることを示す。
高頻度の海運データにおけるノイズを低減するため7日、14日、28日移動平均を使用
本レポートは、ペルシャ湾、紅海、ロシア、CPC、アジアの貿易フローを個別に追跡し、航海ラグと組み合わせて、輸出の変化が輸入と在庫にいつ波及するかを評価する。
外交合意または軍事的エスカレーションを原油価格がレンジを抜ける条件として使用
基本シナリオではブレントは80~90ドル/バレルにとどまると予想する。新たな米・イラン合意はリスクプレミアムを低下させ得る一方、攻撃の規模または標的の大幅な拡大は価格をレンジ上限以上に押し上げ得る。
資産マッピングと比較
投資テーゼから固有資産への構造化マッピング(強み、弱み、同業、リスク)。
- ブレント原油世界在庫、ペルシャ湾供給、地政学的リスクプレミアムの影響を直接受ける
- 強み
- 世界可視在庫の急減、ロシアおよびCPC輸出の障害、アジア輸入の増加。
- 弱み
- 現行価格は適正価値近辺またはそれを上回っており、外交的緊張緩和はリスクプレミアムを圧縮し得る。
- 比較
- スポット適正価値は約80ドル/バレルで、短期想定レンジは80~90ドル/バレル。36カ月適正価値は76ドル/バレル。
- リスク
- 米・イラン交渉の結果、攻撃標的の拡大、ホルムズ海峡および紅海海運の回復ペース。
- ブレント期近スプレッド在庫取り崩しとスポット供給の逼迫は通常、期近価格を期先価格より強める
- 強み
- 日量630万バレルの在庫取り崩しと複数地域からの輸出減少が期近の逼迫を支える。
- 弱み
- 現在のタイムスプレッドにはすでに需給逼迫への一定の期待が織り込まれており、データ改定はシグナルを弱め得る。
- 比較
- レポートは、異なる需要想定の下で1カ月対36カ月のスプレッドを約7%および14%と推定している。
- リスク
- 急速な供給回復、アジア輸入の反落、または洋上在庫データの上方改定。
- サウジ原油輸出紅海ルートの障害により、輸出はエジプトのSUMEDパイプライン経由へ迂回する必要がある
- 強み
- アイン・スフナへのフローは増加しており、SUMEDにはなお1.5mb/d超の迂回余力がある。
- 弱み
- バブ・エル・マンデブ海峡、ヤンブー、紅海海運ルートを通るフローは大幅に減少しており、迂回能力ではショックを完全に相殺できない。
- 比較
- バブ・エル・マンデブ経由のサウジ輸出は前週比1.6mb/d減少した一方、アイン・スフナ向け石油フローは1.0mb/d増加した。
- リスク
- 紅海の安全保障悪化、SUMEDの能力制約、港湾積載の混乱。
- ロシアおよびCPC原油タンカー、製油所、黒海ターミナルへの攻撃は、輸出および関連生産を直接減少させる
- 強み
- 供給減少が世界の原油価格を支える。
- 弱み
- ロシアの原油・コンデンセート輸出は減少し、CPC積載量も通常水準を大きく下回ったままである。
- 比較
- ロシアの原油・コンデンセート輸出は2週間で1.3mb/d減少し、CPC積載不足は約1.0mb/dである。
- リスク
- 攻撃の継続期間、ターミナル復旧の進展、カザフスタンのテンギス油田におけるさらなる減産。
- 中国の精製・石油製品市場中国の輸入増は世界の原油需要を支えるが、輸出政策と稼働率は海外市場向け石油製品供給を制限する
- 強み
- 中国はアジアの原油・コンデンセート純輸入増加のうち2.3mb/dを寄与した。
- 弱み
- 製油所稼働率はわずかに低下しており、在庫安全保障要件と輸出枠が石油製品輸出の拡大を制限している。
- 比較
- 中国の石油製品純輸出は前年比0.8mb/d増加したが、通年の輸出枠は前年と概ね横ばいが予想される。
- リスク
- 以前の低価格購入の効果の減衰、国内需要の変化、政策主導の在庫要件の調整。
主要データ
- ブレントのスポット適正価値約80ドル/バレルOECD在庫、需要、長期価格アンカー、および在庫・価格の歴史的関係に基づく推定。
- ブレントの短期想定レンジ80~90ドル/バレル米・イラン合意がまだ確認されず、軍事紛争が大幅にエスカレートしていない基本シナリオに適用。
- 36カ月ブレント適正価値76ドル/バレル対応する36カ月市場価格は約70ドル/バレル。長期想定には9ドル/バレルの構造的安全保障プレミアムが含まれる。
- 世界可視在庫の変化-6.3mb/d過去2週間における在庫減少のペース。
- ペルシャ湾の石油フロー9mb/d、戦前水準の約36%7日移動平均。7月前半は戦前水準の80%近辺だった。
- 推定ペルシャ湾フロー損失15.3mb/d現在のペルシャ湾石油フローへのショックに関するレポートの推定。
- 紅海主要ルートのフロー前週比1.7mb/d減少バブ・エル・マンデブ海峡とスエズ運河を通る合計フロー。7日移動平均を使用。
- アイン・スフナ経由のサウジ・フロー過去1週間で1.0mb/d増加サウジアラビアがエジプトのSUMEDパイプラインを利用して迂回出荷を強化していることを示す。
- SUMEDの残存迂回能力1.5mb/dをわずかに上回る総能力を2.5mb/dと仮定し、2026年前半のフローと比較。
- ロシアの原油・コンデンセート輸出過去2週間で1.3mb/d減少レポートは、これは6月下旬のドローン攻撃が製油所からタンカーへと移行したことに関連するとみている。
- CPC積載不足通常水準を約1.0mb/d下回る7日移動平均。黒海での攻撃が積載を繰り返し妨害している。
- アジアの原油・コンデンセート純輸入過去2週間で5.6mb/d増加14日移動平均。このうち中国は2.3mb/dを寄与。
- 中国の石油製品純輸出前年比0.8mb/d増加レポートは、輸出枠、エネルギー安全保障要件、製油所稼働率の低下が、さらなる大幅増加を制限するとみている。
影響と示唆
直近データはブレントのスポット価格と期近スプレッドを支えている。複数の供給網が同時に混乱する一方、アジア輸入が従来の高い積載量を吸収し、在庫取り崩しを促している。しかし、約80ドル/バレルという適正価値推定は、現行価格が純粋な在庫ファンダメンタルズが示す価値をすでにわずかに上回ることを示しており、さらなる上昇は紛争激化または供給損失の持続により大きく依存する。米国とイランが合意に達し、紅海およびペルシャ湾のフローが回復すれば、リスクプレミアムは急速に低下する可能性がある。一方、攻撃が拡大してタンカー、港湾、パイプラインの操業を抑制すれば、現在の中程度のリスクプレミアムではテールリスクを反映するには不十分となり得る。
リスク
- 米国とイランが新たな合意に達すれば、ペルシャ湾の供給リスク低下によりブレントのリスクプレミアムは急速に圧縮され得る。
- 攻撃がさらに多くのタンカー、港湾、パイプライン、または重要エネルギー施設に拡大すれば、実際の供給損失は現在価格に織り込まれている水準を大幅に上回り得る。
- SUMEDなどの代替ルートは紅海の混乱を緩和できるが、残存能力は限られ、混乱したフローを完全には代替できない。
- アジア輸入の増加の一部は以前の低価格購入と3~4週間の海運ラグによるものであり、後に反落する可能性がある。
- 海運および洋上在庫データにはノイズがあり、Kplerなどのデータ改定により在庫取り崩しの規模が変化する可能性がある。
- 中国の輸出枠、エネルギー安全保障政策、製油所稼働率の変化は、地域の石油製品需給バランスを変え得る。
注目点
- 米・イラン交渉およびホルムズ海峡の管理体制に関する取り決めが正式合意に至るか。
- ブレントが80~90ドル/バレルの基本シナリオ・レンジを上抜けまたは下抜けできるか。
- ペルシャ湾のフローが戦前水準の36%から回復を継続できるか。
- バブ・エル・マンデブ海峡、スエズ運河、ヤンブー、SUMEDを通るフローと迂回能力。
- ロシアのタンカー、製油所、CPC黒海ターミナルへの攻撃後の輸出回復の進展。
- 世界可視在庫の減少が続くか、また洋上在庫データが再び上方改定されるか。
- 特に中国を中心に、アジアでの輸入増加が継続できるか。
- 中国の製油所稼働率、石油製品輸出枠、在庫政策。