レポート解説
ゴールドマン・サックスは、短期では中立のクロスアセット・スタンスを維持し、12カ月では株式をオーバーウェイトとすることを推奨する一方、債券、実物資産、オプション、トレンド戦略を活用して、テクノロジー集中、金利上昇、インフレ変動リスクに対処することを提言している。
要約
イノベーションの恩恵は引き続き株式を支えるが、インフレと高バリュエーションにはより強固なポートフォリオのバランスが必要
ゴールドマン・サックスは、短期では中立のクロスアセット・スタンスを維持し、12カ月では株式をオーバーウェイトとすることを推奨する一方、債券、実物資産、オプション、トレンド戦略を活用して、テクノロジー集中、金利上昇、インフレ変動リスクに対処することを提言している。
- 3カ月の時間軸では、株式、国債、コモディティ、クレジット、現金はいずれも中立である。
- 12カ月の時間軸では、株式はオーバーウェイト、国債、コモディティ、現金は中立、クレジットはアンダーウェイトである。
- テクノロジー株の長期的な強さにより、セクター・ウェイトと市場集中度はテクノロジー・バブル時の水準かそれを上回る水準に達しているが、今回のサイクルにおける株式リターンはより利益主導である。
- 米国株のバリュエーションは高いが、現時点では収益性とマクロ環境が支えとなっている。一方、ハイパースケール・クラウドプロバイダーによるAI設備投資はフリーキャッシュフローを圧迫し、リターンへの圧力を高めている。
- インフレの市場指標は正常化を開始しているが、マクロのインフレデータは依然として粘着的である。急激な金利上昇と財政懸念は、なお株式と債券の双方を同時に打撃する可能性がある。
- 低いリスクプレミアムによりキャリー取引のリスク・リワードの非対称性は魅力に乏しく、ポートフォリオは地域、スタイル、戦略にわたる分散を拡大すべきである。
レポート解説
概要
本レポートは、景気循環、成長とインフレ、市場価格、リスク選好、バリュエーション、利益、長期的な構造サイクルの観点から、グローバル資産配分を評価している。中東戦争は足元の成長・インフレの組み合わせを悪化させ、市場を「ゴルディロックス」環境からリフレ価格形成へ移行させたが、レポートはインフレが徐々に正常化するにつれてマクロ環境が改善すると予想している。株式は利益とイノベーション・サイクルに支えられているものの、テクノロジーのウェイト、指数集中度、バリュエーションはすでに高く、金利ショックとインフレ変動により伝統的な60/40ポートフォリオの分散効果は不安定となっている。
主要見解
本レポートの中核的見解は、投資家はバリュエーションが高いという理由だけでサイクル後期に大幅に退出すべきではない一方、テクノロジーのモメンタムを単純に追随すべきでもない、というものである。今後12カ月では、利益の底堅さ、高い企業収益性、最終的なインフレ正常化に支えられ、株式は引き続き相対的に魅力的である。同時に、テクノロジー集中、AI設備投資によるフリーキャッシュフローと株主還元への圧力、低いリスクプレミアム、債券利回りの急上昇が主な制約となる。ポートフォリオは、米国以外の株式、低ボラティリティ・高配当・バリューの各スタイル、実物資産、長期のコールオプション、CTA、株式ロング・ショート戦略を通じてリターン分布を改善すべきである。
分析フレームワーク
本調査は、ゴールドマン・サックスの成長、インフレ、政策サイクル指標とクロスアセットの市場価格形成を組み合わせ、リスク選好指標、主成分分析、動的資産配分モデル、多変量ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、シャープレイ値分解を用いて市場環境とテールリスクを評価する。長期セクションでは、1871年、1900年、または1950年以降の歴史的サンプルを用いて、60/40ポートフォリオ、株式・債券相関、構造的なイノベーションとインフレのサイクル、資産バリュエーション、最適配分を比較する。また、2026年8月初旬時点の市場価格、投資家ポジショニング、利益予想も組み込んでいる。
手法メモ
成長、インフレ、政策変数の拡張zスコアを通じて、「ゴルディロックス」、「リフレ」、「バランス型ベア市場」、スタグフレーションなどの状態を識別する。
このフレームワークは、クロスアセットの価格形成が成長ショックと金利ショックのどちらに支配されているかを判断し、株式・債券相関の変化を説明するために用いられる。
株式ポジショニング、ファンドフロー、オプション活動、ボラティリティ、安全資産ポジショニングを統合して、クロスアセットのリスク選好を測定する。
同指標は2026年6月初旬に1.2を上回り、リスク選好が依然高いことを示した。ただし、より広範なセンチメントおよびポジショニング指標はより中立的な水準へ戻っている。
リスク選好の共通変動を、グローバル成長因子と金融政策因子に分解する。
成長楽観の価格形成はマクロサプライズに先行する一方、長期実質利回りの上昇は通常リスク選好を圧迫し、資産クラス間および各スタイル内のローテーションを促す。
マクロサイクル・スコアに基づき、60/40ポートフォリオのドローダウンの条件付き確率を推計する。
モデルは、インフレ上昇がポートフォリオのドローダウンリスクを押し上げていたことを示すが、スタグフレーション・ショックの確率低下に伴い、このリスクは和らいでいる。
S&P 500が今後12カ月に20%超のドローダウンまたは35%超の上昇を経験する確率を推計し、各種変数の寄与を分解する。
現在のリターン分布の非対称性は以前の水準から改善しているが、バリュエーションと景気循環のシグナルは相反しているため、テール保護はなお必要である。
イノベーション、インフレ、生産性、バリュエーション、資産相関に基づき、長期リターン・シナリオと最適資産ポートフォリオを構築する。
異なる構造状態は大幅に異なる10年リターンに対応する。株式は依然として相対的に割高である一方、債券利回りは現在長期平均に近く、長期配分にはより広範な資産分散が必要である。
新興国、ソブリンおよび社債クレジット、外国為替、株式ボラティリティ、イールドカーブにわたるリスクプレミアムを統合する。
同指標は世界金融危機以降の最低水準に近く、現在のキャリー取引に対する補償が不十分であり、成長または金利ショックに脆弱であることを示す。
資産マッピングと比較
投資テーゼから固有資産への構造化マッピング(強み、弱み、同業、リスク)。
- グローバル株式12カ月ではオーバーウェイト、3カ月では中立
- 強み
- 世界の利益予想改定は堅調であり、イノベーション・サイクルと企業収益性が引き続きリターンを支え、サイクル後期に株式を早過ぎる時期からアンダーウェイトにする機会費用は大きい。
- 弱み
- バリュエーションは高く、リスクプレミアムは低く、テクノロジーのウェイトと大型株への集中度は歴史的高水準にある。
- 比較
- 12カ月ベースではクレジットより選好する。地域別ではMSCIアジア太平洋(日本除く)、TOPIX、S&P 500を選好し、STOXX Europe 600は抑制的とする。
- リスク
- 粘着的なインフレ、長期実質利回りの上昇、利益予想の下方修正、テクノロジー・モメンタムのレバレッジ解消、AI投資リターンが期待を下回ること。
- 米国株式およびテクノロジーセクター全体として引き続き支えられるが、テクノロジー・モメンタムの無差別な追随は推奨しない
- 強み
- 高い企業収益性とテクノロジーセクターの利益成長が高いバリュエーションを支え、現在の上昇局面はテクノロジー・バブル期よりも利益に依存している。
- 弱み
- シラーPERはテクノロジー・バブル水準に近く、指数集中度は高まっており、ハイパースケール・クラウドプロバイダーの設備投資はフリーキャッシュフローを圧迫している。
- 比較
- テクノロジー主導の下落局面では、低ボラティリティ・高配当・バリュー株は通常、テクノロジーセクターおよび市場全体をアウトパフォームする。
- リスク
- 生産性向上の実現不足、設備投資リターンの低下、ROEへの圧力、成長楽観から金利ショックへの市場転換。
- 国債3カ月および12カ月の両方で中立
- 強み
- 債券利回りは長期平均に近く、バリュエーション面の後退は株式より小さく、インフレ正常化は金利面の安心材料となり得る。
- 弱み
- インフレまたは財政懸念による急激な利回り上昇は価格損失を招き、株式・債券相関はプラスに転じる可能性がある。
- 比較
- デュレーションでは米国と英国を選好し、日本は抑制的とする。ドイツは短期の選好から12カ月では中立へ移行する。
- リスク
- 米国10年債利回りの急上昇または5%超への上昇、タームプレミアムの再評価、中央銀行政策が市場予想よりタカ派となること。
- クレジット3カ月では中立、12カ月ではアンダーウェイト
- 強み
- より高いリスクフリー金利によりオールイン利回りは魅力的であり、USD IGおよびUSD HYは相対的に選好される。
- 弱み
- クレジットスプレッドとタームプレミアムは低く、成長および金利ショックに対する補償が不十分である。
- 比較
- 米ドル建て投資適格債およびハイイールド債を選好し、ユーロ建て投資適格債およびハイイールド債は抑制的とする。
- リスク
- 経済成長の鈍化、資金調達コストの高止まり、デフォルトリスクの上昇、スプレッドの急拡大。
- コモディティおよび実物資産全体として中立だが、ポートフォリオのヘッジ価値を持つ
- 強み
- 歴史的にはテクノロジー主導の株式下落局面およびインフレ上昇環境で比較的底堅く推移してきた。また、エネルギー、金、総合コモディティはインフレ感応型のエクスポージャーを提供できる。
- 弱み
- 長期的なキャッシュフロー特性は限定的であり、価格は世界成長、米ドル、供給ショックの影響を強く受ける。
- 比較
- テクノロジー下落局面のサンプルでは、金とS&P GSCIの平均パフォーマンスは株式および伝統的な60/40資産を上回った。
- リスク
- 世界需要の弱化、米ドル高、インフレの急低下、供給環境の反転。
- 現金3カ月および12カ月の両方で中立
- 強み
- 流動性を提供し、ポートフォリオのボラティリティを低減するため、市場調整時のリバランスを容易にする。
- 弱み
- リスク資産が上昇を続ける場合、現金には大きな機会費用が生じる。
- 比較
- リターンの安定性は株式およびクレジットより高いが、長期的なリターンの可能性は低い。
- リスク
- 利下げによる現金リターンの低下、長期保有による実質購買力の喪失。
- CTA、株式ロング・ショート、オプション戦略ポートフォリオのテール特性改善とリスク分散に使用
- 強み
- CTAは歴史的にインフレ上昇環境で力強いパフォーマンスを示し、株式ロング・ショートは銘柄間分散の恩恵を受けることができ、長期コールオプションは上昇のコンベクシティを維持できる。
- 弱み
- 戦略リターンはトレンド、銘柄選択能力、ボラティリティ価格、執行コストに依存し、オプションはプレミアム全額を失う可能性がある。
- 比較
- 株式エクスポージャーを直接削減するのと比べ、これらの戦略は一定の上昇参加を維持しつつテールリスクを改善できる。
- リスク
- トレンド反転、混雑取引、インプライド・ボラティリティの低下、モデルの失敗、オプションコストによる侵食。
主要データ
- 世界の実質GDP成長率予想2026年2.5%、2027年2.8%ゴールドマン・サックス予想。2025年は2.8%。
- 米国の実質GDP成長率予想2026年2.1%、2027年2.3%ゴールドマン・サックス予想。
- 世界の総合インフレ率予想2026年3.7%、2027年3.2%前年比ベース。インフレは徐々に正常化すると予想される。
- 米国CPI予想2026年3.2%、2027年2.3%総合インフレ率は年末まで高止まりした後、正常化すると予想される。
- リスク選好指標2026年6月初旬に1.2超ゴールドマン・サックス・リスク選好指標は高水準を維持している。
- モメンタム因子の相対ボラティリティ3.5xS&P 500実現ボラティリティに対するモメンタム因子の1カ月実現ボラティリティ。
- グローバル資産ポートフォリオのカバレッジ規模289兆米ドルグローバル・ポートフォリオにおける各資産クラスの相対ウェイト計算に使用。
- テクノロジー・メディア・通信セクターの過去のドローダウン平均-26.7%、中央値-15.8%サンプルにおけるテクノロジー・メディア・通信セクターのドローダウン。同期間のS&P 500の平均ドローダウンは-15.5%。
- テクノロジー下落局面における実物資産のパフォーマンス平均+2.0%同期間の金の平均は+9.8%、S&P GSCIの平均は+23.7%であり、実物資産には一定の分散価値があることを示す。
影響と示唆
投資上の含意は、リスク資産へのエクスポージャーを維持しつつ、単一のテクノロジー・モメンタムへの依存を低減することである。12カ月では株式は債券およびクレジットより魅力的だが、配分では利益面の支えがより強い市場を優先し、米国以外の地域、バリュー、高配当、低ボラティリティのスタイルを通じて集中リスクを分散すべきである。債券バリュエーションは株式より長期平均に近く、長期配分の機能を一部果たし得るが、インフレが粘着的な場合や利回りが急上昇する場合には、必ずしも株式のヘッジにならない。低いクレジットスプレッドとタームプレミアムは、クレジットおよびキャリー取引の安全余地を制限する。実物資産、CTA、株式ロング・ショート、長期の株式コールオプションは、それぞれインフレ、トレンド、銘柄分散、上昇を逃すリスクに対処できる。
リスク
- 中東戦争のさらなる激化により、成長鈍化とインフレ上昇が同時に発生すること。
- 米国およびその他主要市場のインフレが予想を持続的に上回り、中央銀行がより引き締め的な金融政策の維持を余儀なくされること。
- 粘着的なインフレまたは財政懸念により長期債利回りが急上昇し、株式と債券が同時に下落すること。
- テクノロジーセクターのバリュエーション、ウェイト、市場集中度が過度に高く、モメンタム取引のレバレッジ解消または大型テクノロジー株の下落につながること。
- 人工知能の設備投資が十分な生産性、フリーキャッシュフロー、株主還元に結び付かないこと。
- 世界の利益見通しが上方修正から下方修正に転じ、高バリュエーション株へのファンダメンタルズ面の支えが弱まること。
- クレジットスプレッドとリスクプレミアムが低過ぎるため、キャリーおよびクレジット戦略が成長または金利ショックに対する十分な緩衝材を持たないこと。
- 伝統的な60/40ポートフォリオが、インフレショック下で株式と債券の負の相関による保護を失うこと。
- オプションおよびデリバティブ戦略は、方向性見通しの誤り、ボラティリティの変化、満期条件によりプレミアム全額を失う可能性があり、ネイキッド・オプションの売りも大きな損失を生じ得ること。
- 外国為替ボラティリティが、地域間配分から得られる現地通貨ベースのリターンを大幅に変動させる可能性。
注目点
- 米国および世界の総合インフレ率が、予想どおり2026年後半以降に正常化するか。
- 米国10年国債利回りの水準と上昇ペース、および5%に接近または5%を上回るか。
- 株式・債券相関がプラスを維持するか、市場ショックが成長要因と金利要因のどちらに支配されるか。
- ゴールドマン・サックス・リスク選好指標および株式、CTA、オプション、ファンドフローのポジショニングが再び極端な水準へ向かうか。
- MSCI AC Worldの利益予想改定がプラスを維持できるか、米国テクノロジーセクターの利益成長が鈍化するか。
- AMZN、META、MSFT、GOOGL、ORCLにおける設備投資、フリーキャッシュフロー、ROEの変化。
- 低ボラティリティ株に対するテクノロジー・モメンタムのパフォーマンス、実現ボラティリティ、レバレッジ解消の兆候。
- 米国および新興国市場の指数における上位10銘柄のウェイトと市場集中度。
- クレジットスプレッド、タームプレミアム、ゴールドマン・サックス・キャリー機会指標が低水準から反発するか。
- 米国以外の株式、バリュー、高配当、低ボラティリティ、実物資産、CTAがテクノロジー下落局面で引き続き分散効果を提供できるか。
- 選択的なプットスプレッド・カラー戦略および長期の株式コールオプションの価格面の魅力度。