EUAS:EUAは短期的に€60~90/tで政策により抑制される一方、2030年以降は需給ギャップにより価格が大幅に上昇
モルガン・スタンレーは2026~2030年のEUA予想を引き上げ、TNACおよびMSR在庫の枯渇後、排出削減ペースまたはETSの枠組みに大きな変化がなければ、EUA価格は2035年までに€270/tへ上昇する可能性があるとみている。
要約
モルガン・スタンレーは2026~2030年のEUA予想を引き上げ、TNACおよびMSR在庫の枯渇後、排出削減ペースまたはETSの枠組みに大きな変化がなければ、EUA価格は2035年までに€270/tへ上昇する可能性があるとみている。
- EUA価格は今後数年間、主として€60~90/tの範囲で取引され、2026年のベースケース予想は€86/tである。
- 2026~2030年の価格予想は平均約10%引き上げられたが、2027~2029年の予想は一部のフォワードカーブ価格を下回っている。
- モデルでは、TNAC在庫は2032年、MSR在庫は2040年に枯渇する可能性があり、代替的な供給バッファーは徐々に消失することが示されている。
- 現行の枠組みと排出削減経路の下では、EUA予想は2030年の€107/tから2035年には€270/tへ上昇する。
- 炭素価格の上昇は、発電、公益事業、再生可能エネルギー、脱炭素化プロジェクトのパイプラインを持つセメント企業に総じてプラスだが、航空など高排出セクターのコストを増加させる。
レポート解説
概要
本レポートは、2026年7月17日付のEU ETS見直し提案が、EUAの需給、価格形成、および関連株式セクターに与える影響を評価する。見直しの結果は市場が従来懸念していたほど炭素価格に不利ではなく、モルガン・スタンレーは2026~2030年の価格予想を引き上げた。ただし、政治的な受容可能性と潜在的な供給介入が短期的な上昇余地を制限する。2030年代に入ると、排出需要の減少は実効供給の縮小より遅いと予想され、炭素市場は大幅な構造的不足に直面する。
主要見解
EUA価格の短期的な上限はエネルギーコストと欧州産業の競争力によって制約され、炭素価格が€90~100/tに近づく場合、欧州委員会は供給増加などの措置を通じて介入する可能性がある。下限は約€60/tであり、これは補助金なしの陸上再生可能エネルギープロジェクトが進行を継続するために必要な炭素価格水準に相当する。長期的には、TNACおよびMSRの在庫はそれぞれ2032年と2040年に枯渇すると予想される一方、排出需要の減少は排出枠供給より緩やかである。排出削減が大幅に加速せず、ETSの枠組みが追加改革されなければ、炭素価格は2030年以降に€100/tを上回り、加速的に上昇して、産業の排出削減、設備退出、または政策メカニズムの調整を促すことになる。
分析フレームワーク
本レポートは、2026年7月のETS見直しに含まれる投資促進基金、CBAMの無償割当廃止、セクターベンチマーク、第5フェーズの排出上限、MSR改革、国際オフセットクレジット、航空・海運・廃棄物部門への対象拡大を需給モデルに組み込んでいる。短期価格は、政治的に許容されるレンジで調整した、2018~2025年のEUA価格と翌年までの累積取引可能需給との回帰関係を用いて推定する。長期では、ETS需給モデルを2050年まで機械的に延長し、シナリオ分析により価格、排出削減、制度改革の間のフィードバックを評価する。
手法メモ
排出上限、無償割当、オークション、MSR、TNAC、オフセットクレジット、および対象セクターの排出量から、年間および累積の需給を導出する。
モデルは、2030年以降、実効供給が排出需要より速く減少し、累積不足が拡大して、在庫バッファーが枯渇した後に炭素価格が大幅に押し上げられることを示している。
2018~2025年のEUA価格と翌年までの累積取引可能需給の関係を用いて、短期価格を予測する。
この関係のR²は約0.92であるが、ETSの構造変化に伴い、過去の価格形成メカニズムは将来無効化または変化する可能性がある。
政策介入、需給変化、排出削減のペースに基づき、異なる価格経路を構築する。
2026~2030年のベアケースは概ね€60/tにとどまる一方、ブルケースは€100/tから€120/tへ上昇する。2030年以降のフォワード予想は例示的シナリオである。
8つの主要改革がEUAの供給、需要、市場流通に及ぼす影響を項目別に評価する。
潜在的供給を増加させるMSR改革と、概ね中立的なセクターベンチマーク変更を除き、大半の改革は中長期のEUA需給動向および価格方向にプラスの影響を及ぼす。
資産マッピングと比較
投資テーゼから固有資産への構造化マッピング(強み、弱み、同業、リスク)。
- EU排出枠(EUA)中核的な調査対象資産
- 強み
- 2030年以降の排出枠供給縮小、対象セクターの拡大、在庫バッファーの枯渇が相まって、長期価格を支える。
- 弱み
- 短期価格は産業競争力、エネルギー価格の負担可能性、政策介入によって制約される。
- 比較
- 新たな2026~2030年予想は従来比平均約10%高いが、2027~2029年の予想は一部のフォワードカーブを下回っている。
- リスク
- ETS改革の変更、追加の排出枠供給、国際オフセットクレジットの拡大、予想を上回る排出削減、または脱工業化はいずれも需要と価格を押し下げ得る。
- Fortum、Verbund、RWE、SSE、Orsted炭素価格上昇の潜在的受益者
- 強み
- 卸売発電および再生可能エネルギー資産は、卸売電力価格の上昇と補助金なしプロジェクトの経済性改善から恩恵を受け得る。
- 弱み
- 実際の利益は、発電ミックス、ヘッジ、規制メカニズム、プロジェクト実行能力に左右される。
- 比較
- 卸売発電へのエクスポージャーが高い企業は、規制事業の比率が高い企業よりも一般に直接的な恩恵を受ける。
- リスク
- 政策による炭素価格の抑制、電力価格への不十分な転嫁、建設コストの上昇、許認可の遅延。
- Endesa、Enel、Iberdrola、A2A、Naturgy統合型エネルギー供給事業を通じた受益者
- 強み
- 統合型供給事業は、卸売電力価格の上昇および電化需要の成長から恩恵を受け得る。
- 弱み
- 最終需要家向け価格規制または顧客保護政策により、コスト転嫁と利益改善が制限される可能性がある。
- 比較
- 純粋な発電企業と比べて収益源はより分散しているが、炭素価格への感応度は低い可能性がある。
- リスク
- 政府介入、小売競争、需要減少、燃料価格の変動。
- Holcim、Heidelberg Materialsセメントセクターにおける相対的受益者
- 強み
- 実行可能なCCS、代替燃料、クリンカー削減プロジェクトを有しており、先行者利益を得る可能性がある。
- 弱み
- 業界自体が高炭素集約的であり、多額の設備投資とコンプライアンスコストを引き続き負担する必要がある。
- 比較
- ETS改革は、脱炭素化の先行企業と遅行企業の間のコストおよびバリュエーション格差を拡大させる可能性がある。
- リスク
- 無償割当廃止経路の変更、脱炭素化プロジェクトの遅延、需要低迷、炭素コストを転嫁できないこと。
- 欧州鉄鋼業界中立から複雑な影響
- 強み
- CBAMおよび脱炭素化計画に連動した補助金は、炭素コスト上昇を部分的に緩和し得る。
- 弱み
- 高排出の生産ルートはなおコスト圧力と大規模な転換投資の必要性に直面する。
- 比較
- 低炭素製鉄プロジェクトを持つ企業は、従来型高炉企業よりも長期競争力が高い。
- リスク
- CBAM実施の弱体化、補助金不足、低炭素技術コストの過度な上昇、輸入競争。
- Ryanair、Wizz Air、および欧州航空業界炭素価格上昇によるコスト圧力セクター
- 強み
- 燃料効率の高いLCCは、相対的に単位コストをより適切に管理できる。
- 弱み
- EUA価格の上昇は運航コストを直接的に増加させる。
- 比較
- LCCは相対的に有利となる可能性がある一方、従来型航空会社はコストを転嫁するために運賃引き上げへの依存度が高くなる可能性がある。
- リスク
- 運賃への転嫁能力不足、需要の価格弾力性、排出枠対象範囲の拡大、燃料価格の同時上昇。
主要データ
- 短期の予想EUAレンジ€60–90/t今後数年間に適用され、産業の負担可能性と脱炭素化ニーズの間の政策的バランスを反映する。
- 2026年EUAベースケース予想€86/t従来予想は€80/tであり、フォワードカーブ比で約6%の上昇余地を示す。
- 2030年EUAベースケース予想€107/t従来予想は€93/tで、15%引き上げられた。
- 2026~2030年予想の調整平均約10%引き上げ2026~2029年の予想は、それぞれ約7%、8%、10%、11%引き上げられた。
- 2035年の例示的EUA予想€270/t現在の需給および排出削減の軌道が概ね変わらないという前提に基づく。
- 予想TNAC枯渇時期2032余剰在庫供給が消失した後、市場で利用可能な代替供給源は減少する。
- 予想MSR在庫枯渇時期2040モデルでは、MSRは2033年から在庫が枯渇するまで排出枠を市場に放出すると見込んでいる。
- 2025年から2048年までのETS排出量の変化6億3,200万トン減、54%減少同期間に実効供給は9億4,300万トン、すなわち95%減少し、構造的なギャップを生むと予想される。
- 2027年の欧州電力価格への影響平均約9%上昇EUAとTTFの新たな予想の組み合わせは、公益事業の収益を支えると見込まれる。
影響と示唆
炭素価格の長期的な上昇は、欧州の卸売電力価格と低炭素発電資産の価値を高め、卸売発電エクスポージャー、再生可能エネルギー開発能力、統合型電力供給事業を持つ公益企業に恩恵をもたらす一方、送電網投資の必要性も高める。セメント業界のコストカーブはさらに急峻化し、成熟したCCS、代替燃料、クリンカー削減プロジェクトを持つ先行企業の優位性が高まる。鉄鋼業界への影響はより複雑であり、CBAMと脱炭素化計画に連動する補助金により一部緩和される。航空の運航コストは総じて上昇するが、燃料効率の高いLCCは相対的に有利である。炭素価格の上昇は、炭素回収・貯留、ヒートポンプ、グリーンガス、水素などの技術の経済性も改善する。
リスク
- ETS見直し提案はまだ最終決定されておらず、公開交渉、EU三者協議、立法を要するため、具体的な条件が変更される可能性がある。
- 欧州委員会は、エネルギー価格の負担可能性と産業競争力を保護するため、炭素価格が過度に高い場合に供給を増加させる、または制度を調整する可能性がある。
- CBAM導入および無償割当廃止のペースは、現行提案より遅くなる可能性がある。
- 許容される国際炭素オフセットクレジットの比率が拡大し、それによりEUA需要が減少する可能性がある。
- 排出削減技術の進展、設備閉鎖、または欧州の脱工業化により、排出需要が予想より速く低下する可能性がある。
- TNAC、MSR、および投資促進基金の具体的な実施メカニズムには不確実性が残る。
- EUAの価格形成はもはや過去の回帰関係に従わない可能性があり、長期の機械的予想の信頼性には限界がある。
- モルガン・スタンレーは調査対象企業と取引関係を有する可能性があり、投資家は本レポートを意思決定における一要素としてのみ利用すべきである。
注目点
- 2027年第1四半期に完了が見込まれるETS改革法制化と、EU三者協議の結果。
- CBAM導入および無償割当廃止の最終タイムテーブル。
- 4億トンの投資促進基金における配分、償還、市場売却の取り決め。
- 2028年以降のMSR注入率、放出メカニズム、基準閾値の調整。
- EUA価格が€90~100/tに近づき、新たな政策介入を誘発するかどうか。
- TNAC減少のペース、および予想通り2032年頃に在庫が枯渇するかどうか。
- 欧州の電力、産業、航空、海運からの排出量がモデル前提を上回るかどうか。
- CCS、グリーン水素、ヒートポンプ、その他の排出削減技術におけるコスト低下と商業化の進捗。