レポート解説
ゴールドマン・サックスの指標は、米国の賃金圧力が引き続き緩和する一方、世界の金融環境はわずかに緩和し、経済活動は底堅さを維持していることを示している。ただし、国ごとのパフォーマンスには大きな差がある。
要約
米国の賃金上昇率は3.6%に低下、世界の活動は潜在成長率を上回る状態を維持
ゴールドマン・サックスの指標は、米国の賃金圧力が引き続き緩和する一方、世界の金融環境はわずかに緩和し、経済活動は底堅さを維持していることを示している。ただし、国ごとのパフォーマンスには大きな差がある。
- 米国の賃金トラッカーは第2四半期時点で前年比3.6%へ鈍化した。
- ロシアを除く世界金融環境指数は先週9ベーシスポイント緩和し、主に長期金利が寄与した。
- 世界の現時点活動指標は7月に3.4%となり、ゴールドマン・サックスは世界の活動が明確に潜在成長率を上回っているとみている。
- 先進国市場および新興国市場の現時点活動指標は7月にそれぞれ2.6%と4.5%で、新興国市場が全般的により強かった。
- ゴールドマン・サックスは2026年の米国成長予測を引き上げる一方、フィリピンとインドネシアの予測を引き下げた。
レポート解説
概要
本レポートは、賃金とインフレ、金融環境およびその成長インパルス、足元の経済活動、経済データのサプライズ、財政インパルス、設備稼働率、ゴールドマン・サックスおよびコンセンサスの成長・インフレ予測を対象とする、ゴールドマン・サックス独自のグローバル経済指標フレームワークを更新するものである。中心的なメッセージは、米国の賃金上昇率が引き続き鈍化する一方、世界経済活動は底堅く、金融環境もわずかに緩和したということだ。
主要見解
米国の賃金トラッカーは第2四半期時点で前年比3.6%へ低下し、労働コスト圧力の継続的な緩和を示した。一方、世界の現時点活動指標は7月に3.4%となり、先進国市場の2.6%を上回る一方で新興国市場の4.5%を下回った。これは、世界の活動が潜在成長率を上回り続け、新興国市場が全般的により強いことを示している。ロシアを除く世界金融環境指数は週次で9ベーシスポイント緩和し、将来の成長を一定程度支援している。国別の乖離は顕著であり、インドと中国の活動は強い一方、ブラジルは大幅に弱含み、米国の短期設備稼働率スコアは依然としてマイナスである。成長予測については、ゴールドマン・サックスは2026年の米国予測を引き上げ、フィリピンとインドネシアの予測を引き下げた。
分析フレームワーク
本レポートは、ゴールドマン・サックス独自の指標および国際比較フレームワークを用い、高頻度の活動データ、労働市場データ、価格データ、金融市場変数、財政政策、エコノミスト予測を、成長率、インフレ率、GDP換算値など比較可能な指標へ変換している。分析では、現時点の値、週次変化、3カ月平均、ゴールドマン・サックス予測と他の予測機関の予測との差を比較し、トレンド、転換点、地域間の乖離を特定する。
手法メモ
主要国における総合的な金融環境の緩和度または引き締まり度を測定する。
本指標は、金融政策の実体経済への波及、金融ショックの重要性、将来のGDP成長を取り巻く環境を評価するために用いられる。
金融環境の変化が実質GDP成長に及ぼす影響を推計する。
レポートは、今後4四半期の金融環境による成長インパルスを、米国、ユーロ圏、日本、英国などの経済圏にわたり検証している。
複数の実体経済活動指標から第1主成分を抽出し、GDP換算値に変換する。
CAIは主要な高頻度指標が示唆する成長シグナルを表す。未公表のデータは予測で補完され、実績データが公表されると置き換えられる。
市場コンセンサスに対する経済データ・サプライズの方向、規模、重要度を測定する。
本レポートは日次MAPスコアの21日移動平均を提示し、国別に指標選択、サプライズ閾値、集計手法を標準化している。
価格変動が最も極端なコアインフレ構成要素の3分の1を除外する。
この手法は異常な価格変動の影響を抑え、基調的なインフレ動向をより安定的に測定することを目的とする。
総労働需要と労働供給の差を比較する。
労働需要には雇用者数と求人件数が含まれ、労働供給は労働力人口に対応する。予測には高頻度の採用データ、失業保険申請、その他の先行指標を組み合わせる。
主要国の基調的な賃金上昇率を測定し、調査から先行する賃金シグナルを抽出する。
賃金トラッカーはG10諸国を対象とする。米国の指標は2020年および2021年に雇用構成を調整した。
財政政策が実質GDP成長に及ぼす影響を推計する。
今後4四半期の指標は、2026年第1四半期から第4四半期までの平均財政成長インパルスを用いる。米国の指標には、拡張的な裁量的財政政策と関税の税に類似した効果も含まれる。
労働市場および産業部門の稼働状況を潜在水準に対して包括的に測定する。
本指標は、失業率やサプライヤー納期などのハードデータおよび調査指標を加重して構成され、GDP換算値に変換される。以前は短期アウトプットギャップと呼ばれていた。
実際のインフレ率とBloombergコンセンサスの乖離を測定する。
先進国市場の総合指標はGDP加重で、米国、ユーロ圏、英国、カナダ、日本を対象とし、ベーシスポイントで表される。
資産マッピングと比較
投資テーゼから固有資産への構造化マッピング(強み、弱み、同業、リスク)。
- 米国債および米ドル金利米国の賃金上昇率鈍化は金利への上昇圧力を和らげる一方、強い経済活動と緩和的な金融環境は利回りの低下余地を限定する可能性がある。
- 強み
- 賃金インフレ圧力の低下は、将来の政策緩和に向けたマクロ面での根拠を一定程度提供する。
- 弱み
- 世界および米国の活動は底堅く、明確な景気後退シグナルを形成していない。
- 比較
- インフレ緩和と底堅い成長のシグナルは相殺し合っており、デュレーションの方向性は一方向ではない。
- リスク
- その後の賃金、コアインフレ、または経済データが再び上振れサプライズとなり、金利見通しの反転を招く可能性がある。
- 世界株式金融環境の緩和と世界の活動が潜在成長率を上回ることは、一般的に収益およびリスク選好を支援する。
- 強み
- 世界のCAIは比較的高い水準を維持しており、新興国市場の活動成長は全般的に先進国市場を上回っている。
- 弱み
- 国別のパフォーマンスには大きな乖離があり、一部の経済では活動または設備稼働率の指標が弱い。
- 比較
- 新興国市場は総合的な活動が強いが、内部差も大きいため、総合的な優位性を全市場にわたる同時的な強化と同一視することはできない。
- リスク
- インフレ・サプライズ、長期金利の反発、財政政策の変更、成長予測の下方修正が、金融環境の改善を相殺する可能性がある。
- 米ドルおよび主要通貨米国成長予測の上方修正はドルを相対的に支えるが、賃金鈍化はその金利優位性を低下させる可能性がある。
- 強み
- 米国の7月CAIは比較的高い水準を維持し、成長期待も相対的に堅調である。
- 弱み
- 賃金圧力の弱化により、市場がより多くの政策緩和を織り込む可能性がある。
- 比較
- ドルの方向性は、他国との比較における米国成長の底堅さという優位性が、金利低下の影響を上回れるかに左右される。
- リスク
- 国別のデータ公表スケジュールの違い、予測値から実績値への置換、政策期待の変化が大きな変動を引き起こす可能性がある。
- インフレ連動資産賃金上昇率の鈍化は持続的な高インフレの根拠を弱めるが、世界の活動が潜在成長率を上回ることは、なお一定の物価圧力を維持する可能性がある。
- 強み
- 財政インパルス、関税の税に類似した効果、強い需要は、一定のインフレ上振れリスクを残し得る。
- 弱み
- 米国の賃金トレンドの緩和は、基調的なサービスインフレへの支援を低下させる。
- 比較
- 現時点の証拠は、インフレリスクの完全な消失よりも、インフレ圧力の限界的な低下をより強く支持している。
- リスク
- 総合およびコアのインフレ・サプライズ指数の反発、または関税・財政政策による新たな価格ショック。
主要データ
- 米国賃金トラッカー第2四半期時点で前年比3.6%従来より鈍化しており、基調的な賃金圧力が緩和していることを示す。
- ロシアを除く世界FCIの週次変化-9ベーシスポイント指数の低下は金融環境の緩和を示し、今週の変化は主に長期金利によるものだった。
- 世界の7月現時点CAI3.4%前月比年率ベースで週次比0.2パーセントポイント低下し、3カ月平均は3.2%だった。
- 先進国市場の7月現時点CAI2.6%週次比0.1パーセントポイント低下し、3カ月平均は2.4%だった。
- 新興国市場の7月現時点CAI4.5%週次比0.4パーセントポイント低下し、3カ月平均も4.5%だった。
- 米国の7月現時点CAI3.6%当時、関連データの66%が公表済みであり、指標は週次比0.3パーセントポイント低下した。
- 中国およびインドの7月現時点CAI中国5.1%、インド7.4%インドは週次比0.2パーセントポイント上昇した一方、中国は週次比0.6パーセントポイント低下した。
- ブラジルの7月現時点CAI0.9%週次比2.0パーセントポイントの大幅低下で、今回の更新におけるより注目すべき弱化シグナルの一つである。
- 英国の7月現時点CAI1.1%週次比0.3パーセントポイント上昇し、3カ月平均は0.3%だった。
- 米国短期設備稼働率スコア-1.9%潜在水準比で依然としてマイナスであり、3カ月平均は-2.0%だった。
- 2026年成長予測の調整米国は引き上げ、フィリピンとインドネシアは引き下げ抽出された内容では、原文は具体的な調整幅を示していない。
影響と示唆
賃金上昇率の鈍化は米国の基調的なインフレと金融政策圧力の低下に寄与するが、世界のCAIが潜在成長率を上回り、金融環境がさらに緩和していることは需要が底堅いことを意味し、急速な政策緩和の必要性を抑制する可能性がある。市場への示唆は、明確な景気後退またはリフレのシナリオというより、「成長は許容可能で、インフレ圧力は限界的に緩和している」というものに近い。国別の乖離を踏まえ、投資家は世界の総合指標のみで地域資産を判断することを避け、特にインドと中国のより強い活動シグナルと、ブラジルおよび米国の短期設備稼働率のような弱いシグナルを区別する必要がある。
リスク
- 7月のCAIは暫定データであり、データ公表比率は国によって大きく異なる。一部の欠損値はモデル予測であり、その後の実績データにより大幅な改定が生じる可能性がある。
- CAI、FCI、MAPなどの指標はいずれもゴールドマン・サックス独自のモデルであり、指標設定、ウェイト、判断に基づく調整が結論に影響を与える可能性がある。
- 世界、先進国市場、新興国市場の総合指標はGDPまたは市場為替レートで加重されており、個別経済の顕著な乖離を覆い隠す可能性がある。
- 経済成長およびインフレ予測は、新たなデータ、政策、金融市場環境の変化に応じて調整される。
- 米国の財政インパルスには拡張的な財政政策と関税の税に類似した効果の両方が含まれ、政策変更により成長への影響が現在の推計から乖離する可能性がある。
- 本レポートは個別株のレーティングまたは独立した証券推奨を提供しておらず、マクロ指標は特定資産のリターンと一対一には対応しない。
注目点
- 米国の賃金トラッカーが3.6%を下回り続けるか、および賃金調査の先行指標の変化。
- 7月CAIにおける予測値が実績データに置き換えられた後、世界および各国の活動指標が大幅に改定されるか。
- 世界FCIが緩和を続けられるか、および金融環境の変化に対する長期金利の寄与。
- 強い米国CAIとマイナスの短期設備稼働率スコアの乖離が収束するか。
- 総合およびコアのインフレ・サプライズ指数が、賃金圧力の緩和がインフレデータに波及していることを確認するか。
- 米国、フィリピン、インドネシアに関する2026年成長予測のその後の調整幅。
- 今後4四半期における米国の財政拡張と関税に類似した税効果が成長およびインフレに与える純影響。