Emerging markets outlook and strategy レポート解説
レポートは、底堅いEM成長とリフレ環境が、とりわけ高carry通貨を中心とするEM FXのオーバーウェイトを支えると論じる。一方で、エネルギーとFRBのリスクを認識し、EM現地金利とソブリン信用は市場ウェイト、アジア投資適格社債にはより慎重である。
要約
レポートは、底堅いEM成長とリフレ環境が、とりわけ高carry通貨を中心とするEM FXのオーバーウェイトを支えると論じる。一方で、エネルギーとFRBのリスクを認識し、EM現地金利とソブリン信用は市場ウェイト、アジア投資適格社債にはより慎重である。
- EM成長はトレンドを上回り、主に底堅いEM Asiaが牽引する。食品、エネルギー、テクノロジー関連財のコスト上昇により、インフレは一段と高まる見込み。
- JPMorganはEM FXのオーバーウェイトを維持し、高利回り通貨を選好する。EM FXはFRBの2~3回の利上げに耐えられると見込む。
- 予想政策金利パスを織り込むと現地債券は概ねフェアバリュー近辺と評価され、相対価値取引と戦術的取引に重点を置く市場ウェイトの金利スタンスを支える。
- EMソブリンのスプレッドはタイトでレンジ内にあるが、carryが市場ウェイトを支える。レポートは年末までのトータルリターンを0.9%、EMBIGDスプレッドを185bpと予想する。
- EM社債のスプレッドには底堅いファンダメンタルズが既に反映されている。金利上昇と供給増を受け、JPMorganはAsia IG、Asia Technology、Asia Internet/E-Commerceをアンダーウェイトへ引き下げた。
レポート解説
概要
JPMorganのグローバル新興市場戦略レポートは、EM Asiaとcarry機会にけん引され、EM資産にはなお追い風となる循環的環境があるとみる。配分は差別化されており、EM FXはオーバーウェイト、現地金利とソブリン信用は市場ウェイト、企業信用は中立である。背景には、タイトなスプレッド、金利上昇、大規模な供給がある。
主要見解
JPMorganは、EMが夏場における米国金利の再評価と米国・イラン間の覚書破綻という複合的圧力を比較的よく乗り切り、FXがアウトパフォームしたと論じる。FXに前向きなマクロ的根拠は、EM Asiaの底堅さに主導されるトレンド超のEM成長とリフレ環境である。同社の2026年予想は、新興市場の成長率が4.1%、先進国が1.6%、EM Asiaが5.0%、Latin Americaが1.9%、EMEA EMが2.0%である。レポートはまた、AI関連の海外直接投資が2025年以降に増加しており、とりわけインフラ拠点とハードウェア組立拠点を通じて、EM Asiaの成長優位を強めていると指摘する。 好調な成長環境には、より厳しいインフレ・政策環境が伴う。JPMorganは、食品・エネルギー価格の上昇とテクノロジー関連財の価格上昇がサービスインフレの鈍化を相殺し、EMインフレがさらに上昇すると予想する。インフレの粘着性と成長の底堅さから、リスクバランスはEMの金融引き締め方向へ移っているとみる。これは現地金利への直接的なエクスポージャーの魅力を制限する。トップダウンの枠組みでは、市場が織り込む政策金利パスを考慮すると、現地債券は概ねフェアバリュー近辺にある。そのためEM金利は市場ウェイトとし、高利回り市場対低利回り市場へのバイアス、相対価値取引、カーブ取引、過度な金利織り込みの選択的な反対売買に注力し、広範なデュレーション判断は避けている。 FXでは、JPMorganはEMのオーバーウェイトを維持し、高利回り通貨を選好する。継続するcarry、中央銀行の政策バイアス、リフレが、EM FXによるFRBの2~3回の利上げの消化を可能にし、高carry通貨の継続的なアウトパフォームにつながると判断する。地域別には、Latin AmericaでMXN、COP、PYGをオーバーウェイトとし、BRLでは直接的な強気取引も行う。EMEAではTRY、HUF、CZKを通じてオーバーウェイトとし、RSDのアンダーウェイトでEURUSD変動を部分的にヘッジする。EM Asiaでは、CNHのオーバーウェイトでTHBのアンダーウェイトを中和し、小幅アンダーウェイトから市場ウェイトへ転じた。TWD対SGDとINR対PHP・IDRのロングも維持する。レポートは、米国金利上昇がEM carryを必ずしも損なわず、低利回り通貨群を弱くしたことでリターンを支えた可能性があると指摘する。 ハードカレンシーのソブリン債では、JPMorganは市場ウェイトを維持する。スプレッドはタイトでレンジ内にあるものの、利回りとcarryには魅力があるためである。MongoliaとMontenegroをオーバーウェイトに引き上げ、Colombiaをオーバーウェイトから市場ウェイトへ、BrazilとNigeriaをアンダーウェイトから市場ウェイトへ変更した。Argentina、Ecuador、Egypt、South Africaのオーバーウェイトを維持し、Indonesia、Oman、Paraguay、Poland、Armenia、Uruguayのアンダーウェイトも維持する。EMBIGD指数は、デフォルト証券を除外するデュレーション加重方式へ移行した。9月8日時点で、新方式のEMBIG Diversifiedスプレッドは173bpで、デフォルトを含む従来のデュレーション加重方式では199bp、非デュレーション加重の「superbond」指標では236bpだった。新方式に基づき、JPMorganはレポート時点から年末までのトータルリターンを0.9%、2026年末のEMBIGDスプレッドを185bpと予想する。 テクニカル要因はなお支援的だが、スプレッド資産への慎重さも説明する。累積EM債券ファンドフローは既に2025年の総額を上回り、2021年以降で最高となっている。年初来のEM総フローはUS$110.3bnで、うちEM債券はUS$34.3bnである。同時に、8月のEM社債新規発行は同月として過去最高のUS$26bnに達し、レポートは2026年の社債供給予想に10–15%の上振れ余地を見込む。ソブリンのグロス発行額は2026年にUS$257.2bn、社債のグロス発行額はUS$460bnと予想される。これらは流動性とcarryを支える一方、金利上昇や供給がスプレッドの耐性を試す場合、バリュエーションの緩衝余地は小さい。 したがって、JPMorganはEM社債を中立に維持する。底堅いファンダメンタルズは既にタイトなスプレッドに反映されており、活発なプライマリー供給と金利上昇が課題となる。Asia IGを中立からアンダーウェイトへ引き下げ、CEMBI Asia TechnologyとAsia Internet/E-Commerceも含めた一方、China IGのアンダーウェイトは維持した。India IGのアンダーウェイトでは利益を確定し、中立へ変更した。レポートはこれを、EM企業ファンダメンタルズ全般の悪化ではなく、選別的な信用スタンスとして位置付けている。
分析フレームワーク
JPMorganはまず世界・地域別の成長、インフレ、中央銀行予想を分析し、それらのマクロ条件をEM FX carry、現地金利のバリュエーション、ハードカレンシー信用スプレッドへ結び付ける。政策金利パス、債券利回り、相対価値比較、ファンドフローと発行データ、ポジショニング指標、シナリオ別リターン表を組み合わせ、地域別・商品別の推奨を構築している。
手法メモ
ソブリンおよび企業信用スプレッド分析
レポートは、carry、供給、市場テクニカル、相対価値と照らしてEMBIGDとCEMBIのスプレッドを評価し、EMソブリンおよび企業信用が関連ベンチマークをアウトパフォームできるか判断する。
現地債利回りと政策パスに基づくバリュエーション
JPMorganは現在の10年現地利回りを、コンセンサスと予想政策金利パスから導いたフェアバリュー推計と比較する。広範な市場評価がフェアバリュー近辺にある場合、カーブ取引と相対価値取引を用いる。
資産マッピングと比較
投資テーゼから固有資産への構造化マッピング(強み、弱み、同業、リスク)。
- EM FXcarry、底堅い成長、リフレ環境に支えられたオーバーウェイト。
- 強み
- 高carry通貨はアウトパフォームが見込まれ、JPMorganはEM FXがFRBの2~3回の利上げに耐えられると予想する。
- 弱み
- エネルギー価格、米国金利、中央銀行政策の変化への感応度。
- 比較
- 選好ポジションはMXN、COP、PYG、BRL、TRY、HUF、CZK、CNH、TWD、INRである。RSDのアンダーウェイトと従来のTHBアンダーウェイトは地域ポジショニングに用いられる。
- リスク
- 米国金利の上昇、エネルギー価格ショック、持続的なインフレ。
- EM local rates市場ウェイト。広範なデュレーション配分ではなく、相対価値、カーブ、戦術的取引を重視する。
- 強み
- 高利回りと一部の政策金利ミスマッチが戦術的機会を生む。
- 弱み
- 予想政策金利パスを織り込むと、現地債券は概ねフェアバリュー近辺にある。
- 比較
- Mexico、Colombia、Hungaryをオーバーウェイトとし、Thailand、Chile、Peruをアンダーウェイトとする。
- リスク
- 粘着的なインフレとEM中央銀行によるより広範な金融引き締め。
- EM sovereign creditタイトでレンジ内のスプレッドをcarryが相殺するため、市場ウェイト。
- 強み
- 利回りとcarryが魅力的であり、選別的なオーバーウェイトにはArgentina、Ecuador、Egypt、South Africa、Mongolia、Montenegroが含まれる。
- 弱み
- スプレッドはタイトで、バリュエーションの支えは限定的。
- 比較
- Indonesia、Oman、Paraguay、Poland、Armenia、Uruguayのアンダーウェイトを維持。
- リスク
- スプレッド拡大、米国金利上昇、資金調達または発行圧力。
- EM corporate credit全体では中立で、Asia IGはアンダーウェイトへ引き下げ。
- 強み
- ファンダメンタルズは底堅い。
- 弱み
- タイトなスプレッドにはファンダメンタルズの底堅さが反映済みであり、金利とプライマリー供給は上昇している。
- 比較
- Asia TechnologyとAsia Internet/E-Commerceはアンダーウェイトへ引き下げ、India IGはアンダーウェイトから中立へ変更。
- リスク
- 金利上昇と発行がスプレッドの耐性を試すこと。
主要データ
- EM GDP成長率予想4.1% in 2026先進国の1.6%、EM Asiaの5.0%と比較。
- EMインフレ予想3.4% in 2026食品、エネルギー、コア財の圧力が高まることで、インフレはさらに上昇するとレポートは予想する。
- EM総ファンドフローUS$110.3bn year-to-date既に2025年の総額を上回り、2021年以降で最も高い年間ペース。
- EM社債の8月発行額US$26bn8月として過去最高。JPMorganは2026年の社債供給予想に10–15%の上振れ余地を見込む。
- EMBIG Diversifiedスプレッド173bp as of 8 September 2026デフォルト証券を除外した新たなデュレーション加重方式による。
- EMBIGD年末リターン予想0.9%レポート時点から年末までの予想トータルリターンで、2026年末の185bpスプレッド目標に基づく。
影響と示唆
レポートの資産配分メッセージは、成長が底堅い環境では、とりわけ高利回りFXと選別的なソブリン信用においてEM carryが引き続き有望となり得るというものだ。ただし、インフレ加速、金融引き締めの可能性、政策リスクを既に織り込んだ高利回り、タイトな信用スプレッド、発行増は、広範なリスクオンではなく選別的な相対価値ポジションを求める。
リスク
- 食品・エネルギー価格の上昇とテクノロジー関連財価格の上昇により、EMインフレが粘着化し、中央銀行の一段の引き締めを強いる可能性がある。
- 予想を超える米国金利の再評価、または予想される2~3回を超えるFRBの利上げは、EM FXとcarryポジションを圧迫する可能性がある。
- タイトなソブリン・企業スプレッドと高水準の発行は、供給または金利が需要を試す場合、信用市場を脆弱にする可能性がある。