Global foreign-exchange outlook and policymaking credibility レポート解説
本レポートは、弱い米国データ、財政懸念、政策不確実性がUSDを弱めたと論じるが、HSBCはベースラインではなお緩やかな回復を予想する。EUR-USDの下振れリスク、タカ派的な日銀と国内ポートフォリオ転換によるJPY支援の可能性、そして2026年第4四半期にかけたEUR-CHF低下を取り上げている。
要約
本レポートは、弱い米国データ、財政懸念、政策不確実性がUSDを弱めたと論じるが、HSBCはベースラインではなお緩やかな回復を予想する。EUR-USDの下振れリスク、タカ派的な日銀と国内ポートフォリオ転換によるJPY支援の可能性、そして2026年第4四半期にかけたEUR-CHF低下を取り上げている。
- HSBCはUSD-JPYの3Q26および4Q26予想を161と162から158と160へ引き下げ、中期2027年の164は維持した。
- エネルギー、貿易収支、政治リスクが再び表面化するため、EUR-USDは2027年にかけて徐々に低下すると予想している。
- HSBCは、割高なバリュエーション、スイス貿易データの回復、インフレ上昇を理由に、EUR-CHFの年末予想0.91を維持した。
- USDにとって次の大きな試金石は、9月16日と10月28日のFOMC会合、および11月3日の米国中間選挙である。
- 地域別テーマには、EUR-CHF低下、AUD-CAD上昇、JPY-KRW上昇、USD-TWD低下、INR-IDR上昇、EUR-HUF上昇、BRL-MXN低下、USD-PEN低下が含まれる。
レポート解説
概要
HSBCの9月のCurrency Outlookは、政策の信認、循環的データ、構造的圧力という観点から世界のFX市場を検討する。中心的なメッセージは、USDの最近の下落が相対的なデータ悪化、財政・金融政策の不確実性という厳しい組み合わせを反映しており、JPY、CHFなどの回復持続性は国内政策の実行に左右されるというものだ。
主要見解
HSBCは広範なUSD見通しを、循環的、構造的、政治・政策の3つのフィルターで分析している。米国データは7月以降弱く、中国本土を除く他地域のデータは概ね予想を上回ったため、主要中銀との比較でFed見通しがハト派に再評価され、USD高への確信は低下した。DXYは2年加重金利差を追随し、循環的支援の悪化を示す。構造面では、Fedの反応関数への不確実性と財政赤字拡大が長期ゾーンのタームプレミアムを押し上げ、財務省の買い戻しは財政懸念への対策ではなく一時しのぎと受け止められた。政治面では、JPY買い介入、FIMAレポの議論、制裁リスク、再燃した脱ドル化論が米政策の信認への疑念を強めた。HSBCの拡散指数では、追跡する約30の先進国・新興国通貨の少なくとも90%に対してUSDが下落する日が増えた。ベースラインはなお緩やかなUSD回復だが、3つのフィルターがさらに悪化すればUSDが大幅安となり得る重要局面とみる。 EUR-USDについてHSBCは、最近の上昇は主にUSDの動きであり、ユーロ圏の力強い回復やユーロ資産への戦略的資産配分転換の証拠ではないと考える。ドイツの財政拡張とスペインの成長を支えにユーロ圏成長は安定し、複合PMIは8月までの3カ月に上振れした。しかし市場はECBが2027年7月までに3%超へ引き締めることをすでに織り込んでおり、実現しなければ同通貨ペアは脆弱となる。ポートフォリオ流入はその他投資の流出でほぼ相殺され、リバランスに整合的であるため、脱ドル化によるユーロ圏への戦略的資産配分シフトの明確な兆候はないとする。高いガス価格、低い貯蔵量、貿易赤字の再発、米国・中国との対外収支悪化、フランスの2027年4月選挙を巡る政治リスクを背景に、EUR-USDは2027年にかけて徐々に低下すると予想する。TTFがEUR70-80/MWhを超えると、歴史的にEURのガス価格感応度は高まる。持続的なUSD下落、より説得力のあるユーロ圏の生産性・投資上昇、またはフランスの財政信認が維持される政治展開は、この見方を変え得る。 HSBCはUSD-JPYが変化の瀬戸際にあるとみる。9月初旬に160近辺から急落した背景は、新たな介入ではなく、日銀の一段とタカ派的な転換とGPIFの国内資産シフトへの期待だった。市場は9月18日の25bp利上げを100%の確率で、2027年4月までに75bpの利上げを織り込む。より強いインフレ対応、国内資産への再配分、信頼できる財政健全化計画が、持続的なJPY回復の条件である。2026年6月末時点のGPIFの国内債券配分は25.59%で、目標25%と+/-6 percentage pointの許容レンジに対する水準である。GPIFの資産は約JPY320trnであり、1 percentage pointの変更はJPY3.2trnに相当する。ただし、国内利回り上昇が投資家行動を根本的に変えた証拠は乏しい。HSBCはUSD-JPYの3Q26、4Q26予想を161、162から158、160へ引き下げ、中期2027年の164は維持し、FOMCと日銀会合後に再評価する。 米国中間選挙について、HSBCは過去の選挙周辺で一貫したUSDパターンを見出していない。民主党が下院を支配し、政治的膠着が生じることを基本シナリオとする。さらなる赤字拡大を抑えれば、財政規律は構造面ではUSDにプラスとなり得るが、財政刺激を制約するため循環面ではUSD中立またはマイナスとなり得る。レポートは、USDがリスク中立国債利回りの変化と正相関し、タームプレミアム変動とは逆相関することを区別する。政治的膠着は貿易、規制、外交に関する行政権限を止めず、上院支配は人事と制度リスクに影響する。HSBCの結論は、分割政府は政策ノイズを低下させ、USDを伝統的な経済要因により左右されやすくする可能性があるが、単純な方向性シグナルにはならないというものだ。 EUR-CHFについてHSBCは、最近のCHF安の主因はキャリー・バッファーの欠如であり、ECBのタカ派姿勢がSNBを上回ったためと考える。ただし、EUR-CHFがさらに上昇する強い理由はないとする。同通貨ペアはREERベースの評価と短期移動平均で割高に見え、スイスの貿易収支には初期的な回復兆候がある。スイスの8月CPIは前年比0.8%へ上昇し、SNB目標レンジの中点に近づいたことで政策リスクはより均衡した。スイスのエネルギー貿易収支はGDPの約0.5%で、ユーロ圏の約2%より小さいため、高エネルギー価格による交易条件悪化はCHFにとって相対的に軽い。大きなリスクオフ局面では安全資産需要も再び作用し得る。HSBCはEUR-CHFの年末予想0.91を維持する。 地域別テーマでは、成長・インフレの上振れがRBAのキャッシュレート期待を引き上げ、CADは金利期待に対して割高に見えるため、HSBCはCADよりAUDを選好する。JPY-KRWが8.55から反発したことを受けJPYをKRWより選好するが、KRWの強さとポジショニングの過熱が短期上昇を制限する可能性を警戒する。脱ドル化、より引き締まった金融環境への期待、ヘッジフローの可能性がTWDを支えるためUSD-TWD低下を選好する。インドネシアは事業環境の不確実性があり、純外貨準備が年初来15%減少した一方でインドの外貨準備支援はより大きいため、INRをIDRより選好する。政策金利が37%で据え置かれているにもかかわらず、高いキャリーとより強い準備を理由にTRYのトータルリターンを選好する。緩和継続でHUF安、選挙ボラティリティを理由にBRLへの慎重姿勢、BCRPのUSD買いがなければ強い交易条件、資本流入、対外収支に支えられるPEN高を予想する。
分析フレームワーク
HSBCは、循環的条件、構造的脆弱性、政治・政策の信認を通じて通貨を評価する。相対的なデータサプライズ、金利差、中央銀行の織り込み、資本フローの証拠、貿易・経常収支の動向、財政・政治展開、ポジショニング、REERおよびPPPレンジを含むバリュエーションを組み合わせる。
手法メモ
USDの循環的・構造的・政治/政策フレームワーク
HSBCは、相対的な成長・金利条件、財政と海外需要への懸念、政策または政治的不確実性を分けてUSDを評価する。
REERおよびPPP推計を用いるHSBC Little Mac Valuation Ranges
この手法は通貨ペア別のREERを構築し、現在の推計値を少なくとも5年の利用可能な全期間ウィンドウの平均と比較することで、任意に選んだ単一の移動平均ではなく、インプライドPPP値のレンジを作成する。
米国債利回り変動のリスク中立金利とタームプレミアムへの分解
レポートは、USDとリスク中立利回りおよびタームプレミアムとの異なる関係を利用し、財政展開がなぜ通貨に相反する循環的・構造的効果をもたらし得るかを説明する。
資産マッピングと比較
投資テーゼから固有資産への構造化マッピング(強み、弱み、同業、リスク)。
- EUR-USDHSBCは2027年にかけて徐々に低下すると予想する。
- 強み
- ユーロ圏の成長は安定し、低いインプライド・ボラティリティが同通貨ペアを支え得る。
- 弱み
- エネルギーエクスポージャー、貿易赤字、十分に織り込まれたECB引き締め、政治リスクが下押し圧力となる。
- 比較
- 最近のEUR-USD上昇は、EUR固有の改善よりもUSD安によるものとされる。
- リスク
- 持続的なUSD下落、より強いユーロ圏の投資・生産性、または抑制されたフランスの財政リスクが見方を変え得る。
- USD-JPYJPY回復見通しの改善を受け、HSBCは短期予想を引き下げた。
- 強み
- 日銀のタカ派化とGPIFの国内資産配分が、より持続的なJPY回復を支え得る。
- 弱み
- 現時点で、国内利回りの上昇が日本の投資家行動を本質的に変えた証拠は乏しい。
- 比較
- 政策による変化は、介入単独の影響より持続的となる。
- リスク
- 日銀の発言や国内政策の変更が期待外れとなる可能性がある。
- EUR-CHFHSBCは2026年第4四半期にEUR-CHFが低下することを選好する。
- 強み
- スイスの貿易収支回復、インフレ上昇、相対的に低いエネルギーエクスポージャーがCHFを支える。
- 弱み
- ECB政策がSNBよりタカ派に見える局面で、CHFにはキャリー支援が欠ける。
- 比較
- HSBCのREERベース評価と短期平均によれば、EUR-CHFは割高に見える。
- リスク
- 最近の動きの後も、同通貨ペアにはさらなる上昇余地が残る。
- AUD-CADHSBCはAUD-CAD上昇を選好する。
- 強み
- 成長・インフレの上振れ後のRBA期待の再調整がAUDを支える。
- 比較
- CADは金利期待に対して割高に見えるため、HSBCはUSDではなくAUDに対してCADへの慎重姿勢を表現することを選ぶ。
- USD-PENHSBCはUSD-PEN低下を選好する。
- 強み
- PENは強い交易条件、対外収支、FDI、ポートフォリオ流入に支えられる。
- 弱み
- BCRPの介入が、さらなる上昇の主な阻害要因だった。
- 比較
- HSBCはPENをファンダメンタルズ上、割安とみる。
- リスク
- BCRPによるUSD買いの再開はPEN上昇を制限し得る。
主要データ
- USD-JPYの3Q26予想158161から引き下げ
- USD-JPYの4Q26予想160162から引き下げ
- USD-JPYの中期2027年予想164変更なし
- 日銀の市場織り込み100% probability of a 25bp hike on 18 September; 75bp by April 2027日銀の最近の実績より大幅に速い利上げペースを示唆
- GPIFの国内債券配分25.59%2026年6月末時点。25%目標と+/-6 percentage pointの許容レンジに対する水準
- GPIFの1 percentage point当たりの潜在的配分変更JPY3.2trn (USD20bn)約JPY320trnのGPIF資産に基づく
- スイスの総合インフレ0.8% year-on-year8月の数値で、SNB目標レンジの中点付近
- EUR-CHFの年末予想0.91HSBCが維持
- 米国予算赤字予想6.2% of GDPHSBCエコノミストによる2026年予想
- ユーロ圏のガス価格感応度の閾値EUR70-80/MWhHSBCは、この水準を超えるとEUR-USDが歴史的により大きな圧力を受けるとみる
影響と示唆
本レポートは、FXパフォーマンスが金利水準だけでなく、ますます政策の信認に左右されると描写する。ベースラインは緩やかなUSD回復だが、米国の循環、財政、政策面の圧力が安定することが前提である。EURは中期的な構造的逆風に直面し、JPYは国内政策とポートフォリオ転換が実現する場合にのみ持続的な支援を得る一方、バリュエーションとスイスのファンダメンタルズが再び作用すればCHFはEURに対して回復し得るとみる。
リスク
- 米国の循環的、構造的、または政治・政策上の信認がさらに悪化すれば、USDはHSBCのベースラインを大幅に下回る可能性がある。
- 米国データが弱いままでFedが慎重姿勢を維持すれば、EUR-USDはHSBCの想定より長く支えられる可能性がある。
- より説得力のあるユーロ圏の生産性・投資上昇、またはフランスの財政信認維持は、EUR-USD下落見通しに異議を唱え得る。
- 日銀の政策発言または国内ポートフォリオ転換が期待外れとなれば、JPYの持続的回復が制限され得る。
- より高い油価、世界的なリスクオフ、政策乖離は、個別通貨予想に対するリスクであり続ける。
注目点
- 9月16日と10月28日のFOMC会合、および11月3日の米国中間選挙。
- 9月18日の日銀決定と、よりタカ派的な反応関数の証拠。
- GPIFまたは他の日本投資家が国内資産へ配分を移すかどうか。
- 米国のインフレ、労働市場データ、財務省タームプレミアム、財政政策の信認ストレスの兆候。
- ユーロ圏のガス価格、貯蔵量、貿易収支、フランス選挙を巡る財政リスクプレミアム。
- BCRPがUSD買いを再開するか、脱ドル化関連のFXフローが勢いを増すか。