マクロ:ホルムズ海峡の混乱は続くが、アジア・フロンティア経済圏のエネルギー供給はまだ滞っていない
J.P. Morganは、2026年のパキスタン、スリランカ、ベトナムのタンカー輸入が2023~2025年平均を上回り、バングラデシュは概ね平均並みであると分析する。供給源の多様化と代替輸送ルートがエネルギーフローを支えているが、輸入費用、電力コスト、部門債務の圧力は蓄積している。
要約
J.P. Morganは、2026年のパキスタン、スリランカ、ベトナムのタンカー輸入が2023~2025年平均を上回り、バングラデシュは概ね平均並みであると分析する。供給源の多様化と代替輸送ルートがエネルギーフローを支えているが、輸入費用、電力コスト、部門債務の圧力は蓄積している。
- 執筆時点でブレント原油はUS$93.3/バレルであり、持続的な供給混乱シナリオで広く予想されていた3桁の水準を大きく下回った。
- パキスタン、スリランカ、ベトナムのタンカー輸入は2023~2025年平均を上回り、バングラデシュは概ね平均並みである。
- 輸入の強靭性は、事前の在庫積み増し、供給源の多様化、代替輸送ルートの組み合わせを反映している可能性がある。
- バングラデシュの液化天然ガス輸入は過去の傾向に近く、停電は電力部門の財務難や発電コスト上昇により生じている可能性がより高い。
- パキスタンの液化天然ガス輸入は過去の水準を大幅に下回るが、太陽光発電の拡大が電力供給への影響を一部緩和している。
- 地域の輸入費用は急増しており、貿易収支と対外財務ポジションを圧迫している。
レポート解説
概要
本レポートは、ホルムズ海峡の継続的な混乱の中で、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、ベトナム向けの石油・ガス供給を維持できるかを検討する。物理的なエネルギーフローは当面おおむね強靭であると結論付けるが、この強靭性は供給源の多様化、代替ルート、そして事前の在庫積み増しの可能性に依存しており、輸入費用の上昇と部門の財務負担増を伴う。
主要見解
レポートはまず、現在の結果が従来の悲観的な予想を大きく上回っていると指摘する。3月時点で、ホルムズ海峡が8月末まで何らかの形で閉鎖状態を維持すると分かっていれば、市場は中東からの供給が持続的に混乱し、原油価格がUS$100/バレルを大幅に超え、世界経済の重荷となると予想していた可能性がある。しかし執筆時点でブレント原油はUS$93.3/バレルにとどまり、世界経済は機能を維持していた。湾岸協力会議諸国の原油への依存度が高いアジア・フロンティア経済圏にとって、重要なのは価格上昇を支払うことだけではなく、石油・ガスが物理的に到着できるかである。 物理的なフローを評価するため、J.P. Morganは内陸国であるラオスとモンゴルを除外して日次のタンカー輸入を検証した。2026年のデータを2023~2025年平均と比較すると、パキスタン、スリランカ、ベトナムの輸入は大幅な崩壊を回避しただけでなく、最近の過去平均を上回った。バングラデシュは過去平均と概ね一致した。レポートは、供給不確実性の高まりを受けて企業や政府が事前に在庫を積み増し、需要を前倒しした可能性があるとみる。一方で、海峡の混乱によってエネルギー輸送網が完全には遮断されていないことも示している。 レポートは、タンカー輸入の強靭性を二つのメカニズムに帰している。輸入源の多様化と、代替ルート、さらにはホルムズ海峡を通じた湾岸産石油・ガスの継続的な流入である。レポートが引用する情報によると、バングラデシュは中央アジア、南アジア、サブサハラ・アフリカ、米国を含む幅広い地域からの供給を求めている。パキスタンは米国からの供給拡大を模索しており、スリランカは3~4月にインドから一部供給を得たほか、中国およびロシアとの輸入協議が報じられた。ベトナムの税関データも、オーストラリア、中国、韓国からの精製石油製品輸入額の急増を示しており、レポートはこれが価格上昇と輸入量増加の双方を反映している可能性があるとみる。 液化天然ガスについては、天然ガスがそれぞれの電源構成で約3分の2および4分の1強を占めるため、レポートはバングラデシュとパキスタンを個別に分析している。バングラデシュの液化天然ガス輸入は概ね過去の傾向に沿っており、オーストラリア、インドネシア、米国からの輸入増加の恩恵を受けている可能性がある。それにもかかわらず、局地的な不足と停電の報告は複数ある。したがってレポートは、停電が物理的供給の不足だけに起因するのではなく、電力部門に長年存在する財務難と発電コスト上昇が、より重要な制約となっている可能性があると結論付ける。 パキスタンの状況はより脆弱で、液化天然ガス輸入は過去の標準を大幅に下回っている。レポートは、これは従来カタール産液化天然ガスをパキスタンへ輸送できた免除措置の失効に関連する可能性があるとみる。太陽光発電の拡大は、液化天然ガス不足が電力生産に及ぼす影響を緩和した可能性があるが、発電コストの上昇はガス部門の財務的脆弱性をなお悪化させている。レポートが引用するIMFデータによると、パキスタンのガス部門の循環債務は2026年初のPKR3.442兆から6月にはPKR3.611兆へ増加し、GDPの2.7%に相当した。発電コストは38%上昇したと報じられている。同期間に電力部門の循環債務はPKR1.764兆からPKR1.675兆へ低下しており、二つのエネルギーサブセクターの債務動向は一致していないことを示す。 レポートは最終的に、供給の強靭性は無償ではないと強調する。地域の原油・精製石油製品の輸入費用はすでに大幅に増加し、貿易収支と対外財務ポジションの重荷となっている。湾岸協力会議諸国の石油・ガスフローの混乱も、最近強まったようにみえる。公的データはトランスポンダーをオフにして運航するタンカーを除外している可能性もあり、観測される輸送量は実際のフローと完全には一致しない。レポートの暫定的な結論は、地域の大半が現在、輸送と電力供給を維持できるものの、この状況は供給混乱、コスト上昇、エネルギー部門の財務圧力によって今後も試され続けるというものだ。データカレンダーのセクションでは、8月24~28日の週にはデータリリースがなく、その前週のデータレビューもなかったと記している。
分析フレームワーク
レポートはまず、海峡の継続的な混乱、ブレント原油価格、世界経済のパフォーマンスを用いて、予想と現実の乖離を枠組み化する。次に、日次のタンカー輸入と28日移動平均を用い、2026年の海運活動を2023~2025年平均と比較する。その後、国別の供給源の変化を追跡し、発電における天然ガス依存度がより高いバングラデシュとパキスタンを個別に分析したうえで、物理的供給状況を輸入費用、発電コスト、循環債務、対外収支と結び付ける。
手法メモ
物理的な石油・ガス供給と需要の前倒しに関する分析
レポートはタンカーおよび液化天然ガスの輸入量を用いて、エネルギーが実際に各国へ流入しているかを判断し、事前の在庫積み増し、供給源の多様化、輸送ルートの変更を通じて、海峡の混乱にもかかわらず輸入が強靭性を維持した理由を説明している。
ホルムズ海峡の混乱に関するイベント影響分析
レポートは海峡の継続的な混乱をショックイベントとして扱い、原油価格および経済に対する従来妥当だった悲観的予想を8月末時点の実際の結果と比較し、石油・ガス輸送、輸入コスト、エネルギー部門の財務状況への波及を追跡している。
28日移動平均と過去平均の比較
レポートはタンカー輸入の28日移動平均を用いて日次変動を平滑化し、2026年のデータを2023~2025年平均と比較して、輸入が最近の標準から乖離しているかを特定している。
資産マッピングと比較
投資テーゼから固有資産への構造化マッピング(強み、弱み、同業、リスク)。
- バングラデシュタンカーおよび液化天然ガス輸入は概ね過去の傾向に沿っており、エネルギー供給は全般的に安定している。
- 強み
- 供給源は中央アジア、南アジア、サブサハラ・アフリカ、米国、オーストラリア、インドネシアを含む地域へ拡大している。
- 弱み
- 不足と停電が続いており、電力部門に長年ある財務難と発電コスト上昇が電力供給能力を制約する可能性がある。
- 比較
- タンカー輸入は概ね過去平均水準であり、平均を上回るパキスタン、スリランカ、ベトナムより弱い。
- リスク
- 輸入コストの上昇と電力部門の財務難が、電力供給および対外収支に引き続き影響する可能性がある。
- パキスタンタンカー輸入は最近の過去平均を上回るが、液化天然ガス輸入は通常水準を大幅に下回る。
- 強み
- 米国からの供給拡大を模索しており、太陽光発電の拡大が液化天然ガス不足の発電への影響を緩和する可能性がある。
- 弱み
- ガス部門の循環債務はPKR3.611兆へ増加し、発電コストは38%上昇したと報じられている。
- 比較
- タンカー輸入は比較的強靭であるが、液化天然ガス不足はレポート対象国の中でも特に顕著である。
- リスク
- 液化天然ガス輸送の取り決め変更、発電コスト上昇、ガス部門債務の増加が、エネルギーシステムの強靭性を弱める可能性がある。
- スリランカ2026年のタンカー輸入は2023~2025年平均を上回る。
- 強み
- 3~4月にインドから一部供給を得て、中国およびロシアとの輸入協議も報じられており、供給源の多様化を示している。
- 弱み
- 供給の強靭性には、なお地域のエネルギー輸入費用増加が伴う。
- 比較
- パキスタンやベトナムと同様、タンカー輸入は最近の過去平均を上回り、概ね平均並みのバングラデシュより良好である。
- リスク
- 湾岸の石油・ガスフローの継続的混乱と輸入コスト上昇が、既存の供給強靭性を試す可能性がある。
- ベトナム2026年のタンカー輸入は2023~2025年平均を上回る。
- 強み
- オーストラリア、中国、韓国からの精製石油製品輸入額が急増しており、代替供給源が役割を果たしていることを示す。
- 弱み
- 輸入額の増加は価格と数量の双方の影響を反映する可能性があり、輸入コスト圧力の高まりを示唆する。
- 比較
- パキスタン、スリランカとともに、タンカー輸入が過去平均を上回る経済圏に含まれる。
- リスク
- 湾岸からの供給混乱の長期化と輸入費用の増加が、貿易収支および対外財務ポジションを圧迫する可能性がある。
主要データ
- ブレント原油価格US$93.3/バレル執筆時点の価格。中東からの供給混乱が持続するシナリオで広く予想された3桁水準を下回る
- 2026年のタンカー輸入パキスタン、スリランカ、ベトナムは2023~2025年平均超、バングラデシュは概ね平均並み日次タンカー輸入と28日移動平均の過去比較に基づく
- 発電に占める天然ガスの比率バングラデシュでは約3分の2、パキスタンでは4分の1強両国の電力システムにとって液化天然ガス供給が重要であることを示す
- パキスタンの液化天然ガス輸入過去の標準を大幅に下回るレポートは、カタール産液化天然ガス輸送の免除措置失効に関連する可能性があるとみる
- パキスタンのガス部門における循環債務PKR3.611兆2026年6月時点でGDPの2.7%に相当。2026年初はPKR3.442兆
- パキスタンの発電コスト38%上昇レポートで引用された上昇幅
- パキスタンの電力部門における循環債務PKR1.675兆2026年6月時点で、2026年初のPKR1.764兆を下回る
影響と示唆
レポートは、供給源の多様化、代替輸送ルート、太陽光発電の拡大により、地域経済は物理的なエネルギー供給の完全な途絶を一時的に回避できたとみる。しかしコストショックは輸入費用の増加、貿易収支の悪化、エネルギー部門への財務圧力に転化している。バングラデシュの停電は部門の財務制約による影響がより大きい可能性がある一方、パキスタンは液化天然ガス輸入の不足とガス部門の循環債務拡大に同時に直面している。
リスク
- 湾岸協力会議諸国の石油・ガスフローの長期的な混乱は最近強まったようにみえ、既存の供給強靭性はなお試される可能性がある。
- 地域のエネルギー輸入費用は急増しており、貿易収支と対外財務ポジションの重荷となり続ける可能性がある。
- 発電コストの上昇とエネルギー部門の財務難は、物理的供給が利用可能な場合でも不足や停電を引き起こす可能性がある。
注目点
- バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、ベトナムのタンカー輸入が、2023~2025年平均に対して強靭性を維持するか追跡する。
- バングラデシュとパキスタンの液化天然ガス輸入、ならびに代替供給源と太陽光発電による緩和効果を監視する。
- 地域の輸入費用、パキスタンの発電コスト、ガス・電力部門の循環債務のその後の変化を監視する。